症例16:大動脈解離

症例16:大動脈解離

<解説>

大動脈は、外膜、中膜、内膜の3層構造で、十分な強さと弾力があるが、なんらかの原因で大動脈壁が「中膜のレベル」で二層に剥離し、その外側の中膜の中に血液が入り込んで長軸方向に大動脈が裂けることを大動脈解離という。

大動脈瘤は、通常20~25㎜程度の大動脈が「こぶ」のように病的にふくらんだ状態(30~40㎜以上)を指す。
胸部に動脈瘤がある場合を「胸部大動脈瘤」、腹部に大動脈瘤がある場合を「腹部大動脈瘤」という。
胸部大動脈瘤は、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤に分類される。
胸部から腹部にかけて、横隔膜をまたいで連続した大動脈瘤がある場合は「胸腹部大動脈瘤」という。

  • 大動脈瘤の原因
    動脈硬化、高血圧、喫煙、ストレス、高脂血症、糖尿病など、様々な要因が関係すると考えられている。
    その他にも外傷や感染・炎症などによる特殊な大動脈瘤もある。また、紡錘状瘤、紡錘状瘤、二つの形が混ざり合ったものもあり、一般的に同じ大きさであれば、嚢状瘤の方が破裂の危険性は高いと考えられている。

【スタンフォード型】
大動脈解離は大動脈が裂ける場所によって2つに分類される。

  • スタンフォードA型:上行大動脈から裂けるタイプ
  • スタンフォードB型:上行大動脈は裂けず、下行大動脈から裂けるタイプ

【Debakey分類】
上行大動脈に解離がある症例では、急変例が多いため、手術適応の有無や手術術式決定などの際に有用。

  • Ⅰ型:内膜亀裂が上行大動脈に始まり、上行大動脈~下行大動脈~腹部大動脈にまで広範囲に解離が及ぶタイプ
  • Ⅱ型:内膜亀裂が上行大動脈に始まり、上行大動脈に解離が限局するタイプ
      • Ⅲ型はa型とb型に分類:
        ■  Ⅲa型:内膜亀裂が弓部大動脈遠位部に始まり、解離が下行大動脈に限局するタイプ
        ■  Ⅲb型:内膜亀裂が弓部大動脈遠位部に始まり、解離が下行大動脈~腹部大動脈に及ぶタイプ

※原則的に、Ⅰ型~Ⅱ型は手術適応。

<症状>

大動脈瘤は自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんど。

■胸部大動脈瘤:大きくなると、周囲の組織が圧迫されて症状が現れる場合が稀にある。胸部大動脈瘤が急速に大きくなって、破裂が差し迫っている可能性もあるので、すぐに専門医を受診する必要がある。

■腹部大動脈瘤:大きくふくらむと、やせている方で「こぶ」が目立つようになったり、腹部を触ったときに「こぶ」の中を流れる血流の拍動を感じることもあるが、自分では気づいていなかった腹部大動脈瘤が、他の病気で腹部の超音波検査やCT検査を受けた時に、偶然、発見されることがほとんど。
腹部大動脈瘤の破裂が差し迫った場合は、腹痛や腰痛が起こることも。瞬間的な痛みではなく、持続する強い痛みであることが多い。

症状がなく、気づかれないままに大動脈瘤が大きくなって破裂すると、胸腹内に大量に出血し、激しい胸や背中の痛み、腹痛などが起こり、ショック状態になる。
急速に危険な状態に陥るため、緊急手術でしか救命できない場合がほとんど。
他の病気の検査の時に、偶然、大動脈瘤があると診断された場合、定期的に経過観察してもらうことが重要。

<画像の解説>

  • 単純X線写真
    急性大動脈解離が胸部レントゲン検査で判明することはない。破裂で心嚢内に出血している場合には心拡大がみられ、上行大動脈の拡大によって縦隔が拡大していることも。確定診断ではなく疑いがあれば、CT検査が必要。
  • CT
    偽腔閉塞型なら単純CTでもわかる可能性高い。
    大動脈壁の石灰化は内膜に生じるため、中膜で剥離する大動脈解離では、内膜石灰化が内腔側へ偏移することも。

<治療と予後、合併症>

治療法は、スタンフォードAとBで異なる。

  • スタンフォードA型:命に関わる致命的な合併症を生じやすいため、緊急手術が必要。解離の範囲に応じて、人工血管を用いた置換術を行う。
    弁にも解離が及んでいれば、弁置換術となり、冠動脈まで解離が進んでいれば、バイパス手術を行う。
  • スタンフォードB型:A型と比べて合併症も少ないため、保存的に血圧と疼痛のコントロールを行う。
    偽腔によって、脊髄・腎臓・腸管への血流障害を起こしている場合、人工血管の置換術を行うこともある。

合併症として、術後の出血、心機能低下、脳合併症(脳梗塞)が重大。タイプBでは、さらに脊髄麻痺、呼吸の合併症を起こす場合もあるので注意が必要。